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最高裁判所第三小法廷 昭和43年(あ)1684号 決定 1970年7月21日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人中島達敬、同彦坂敏尚連名の上告趣意第一点は、原判決が憲法二八条の解釈を誤ったものと主張するのであるが、原判決は本件につき所論のように公共企業体等労働関係法(以下公労法と略称する。)一七条一項を適用しているものではなく、むしろ本件の争議行為については、それが右公労法一七条一項の禁止規定に違反するものであっても、労働組合法一条二項によってその正当性の有無を判断すべきものとの前提をとっているものであることが明らかである(右の前提は相当である。)から、論旨はその前提を欠き、適法な憲法違反の主張にあたらない。

同上告趣意第二点ないし第四点は、いずれも事実誤認ないし単なる法令違反の主張であって、適法な上告理由にあたらない。

弁護人伊達秋雄、同大野正男、同彦坂敏尚、同中島達敬連名の補充上告趣意は、すべて事実誤認ないし単なる法令違反の主張であって、適法な上告理由にあたらない。

なお、原判決が被告人の本件各所為につきいずれも正当な争議行為であるとはいえずその違法性を阻却すべき事由はないとしたのは相当であり、そのほか、記録を検討しても、本件につき刑訴法四一一条を適用すべき事由は認められない。

よって、同法四一四条、三八六条一項三号により、主文のとおり決定する。

この決定は、裁判官下村三郎、同松本正雄の意見があるほか、裁判官全員一致の意見によるものである。

裁判官下村三郎の意見は次のとおりである。

弁護人中島達敬、同彦坂敏尚連名の上告趣意第一点ないし第三点ならびに弁護人伊達秋雄ほか三名連名の補充上告趣意第二点について。

公共企業体等労働関係法一七条一項は、争議行為を禁止しているのであるから、これに違反してなされた争議行為は、すべて違法であって、正当な争議行為というものはありえない。したがって、このような争議行為には、労働組合法一条二項の適用はないものと解すべきである。その理由の詳細は、昭和三九年(あ)第二九六号昭和四一年一〇月二六日大法廷判決(刑集二〇巻八号九〇一頁)における裁判官奥野健一、同草鹿浅之介、同石田和外三裁判官の反対意見と同趣旨であるから、ここにこれを引用する。

そして、右見解によれば、原判決が被告人の本件各所為について正当な争議行為の範囲にとどまるものかどうかの点を判断しているのは、法令の解釈を誤ったものであるといわなければならない。しかし、原判決は、結局において、被告人の本件各所為がいずれも正当な争議行為にあたらないとして、公務執行妨害罪および威圧業務妨害罪の成立を認めているのであるから、右の誤りについて刑訴法四一一条を適用すべきものとは認められない。

裁判官松本正雄の意見は次のとおりである。

原判決は、本件争議行為にも労働組合法一条二項の適用があることを前提として、その正当性を判断しているものであり、多数意見は右の前提を是認するのである。

しかし、わたくしは、本件争議行為は公共企業体等労働関係法一七条一項に違反してなされた違法なものであるから、これについては労働組合法一条二項の適用はなく、正当性の有無を論ずる余地はないと考える。この点に関しては、当第三小法廷昭和四二年(あ)第一三七三号同四五年六月二三日決定(いわゆる札幌市電スト事件)において、わたくしの反対意見として述べたところと同趣旨であるから、ここにこれを引用する(なお、右反対意見は、地方公営企業労働関係法一一条一項に違反してなされた争議行為と労働組合法一条二項との関係について述べたものであるが、そこで論じたところは、公共企業体等労働関係法一七条一項に違反してなされた争議行為と労働組合法一条二項との関係についてもほぼ同様に考える。)。

わたくしの見解は右のとおりであるから、原判決は法令の解釈を誤ったものと思料する。しかしながら、原判決は、その結論としては、本件各所為がいずれも争議行為としての正当性を有しないものとして、公務執行妨害および威力業務妨害の各罪の成立を認めているから、その誤りについては、刑訴法四一一条を適用すべきものとは認められない。

(裁判長裁判官 松本正雄 裁判官 田中二郎 裁判官 下村三郎 裁判官 飯村義美 裁判官 関根小郷)

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